なぜ球場で「Take Me Out to the Ball Game」が歌われるのか?野球観戦を知らない2人が作った名曲の秘密

メジャーリーグの試合を見ていると、7回表が終わったところで観客が一斉に立ち上がり、「Take Me Out to the Ball Game(私を野球に連れていって)」を歌う光景に出会います。

今では当たり前のように行われていますが、この曲は最初から球場のために作られた応援歌ではありません。実は、野球場の外で生まれた流行歌が、長い年月をかけてアメリカ野球を象徴する歌になったのです。

野球を見たことがない2人が作った野球の歌

「Take Me Out to the Ball Game」が発表されたのは1908年です。作詞したのは舞台俳優や作詞家として活動していたジャック・ノーワス、作曲したのはアルバート・フォン・ティルザーでした。

驚くことに、2人ともこの曲を作った時点では、メジャーリーグの試合を球場で観戦した経験がなかったとされています。

誕生のきっかけ:ニューヨークの地下鉄広告

「Baseball Today-Polo Grounds」という試合の広告を目にしたことでした。そこから着想を得た彼は、封筒か紙片に歌詞を書き留め、それをアルバート・フォン・ティルザーが軽快なワルツ調の曲に仕上げたと伝えられています。この手書き原稿は、現在も米国の野球殿堂の資料として保存されています。

曲の主役は野球選手ではありません。1908年版ではケイティ・ケイシーという野球好きの若い女性が登場します。恋人から別の娯楽に誘われても、彼女が行きたいのは野球場です。つまり、この曲は「偉大な選手をたたえる歌」ではなく、一人の熱心なファンが「私を野球に連れていって」と訴える物語だったのです。(※1927年に作られた別の版では、主人公の名前がネリー・ケリーに変更されています)

最初から球場で歌われていたわけではない

1908年に発表されたこの曲は、楽譜やレコードが大量に売れ、ボードビルと呼ばれる大衆劇場や映画館の幕間で歌われました。映像に合わせて観客が歌に参加する仕掛けもあり、誰でも覚えやすく、一緒に口ずさめる流行歌として広がっていきました。

しかし、意外にも野球場で歌われるようになるまでには時間がかかりました。

野球殿堂によると、球場で演奏されたことを確認できる最初期の例は1934年で、ロサンゼルスの高校野球の試合だったとされています。同年のワールドシリーズでも演奏されましたが、現在のように全米の球場で歌う習慣がすぐに定着したわけではありませんでした。

なぜ7回に歌うのか?「セブンス・イニング・ストレッチ」

曲が歌われるのは、一般に7回表終了後の「セブンス・イニング・ストレッチ」です。長時間座り続けた観客が立ち上がり、腕や脚を伸ばして一息入れるための時間であり、試合終盤を迎える前に観客が気分を入れ直す休憩でもあります。

「7回に立つ」習慣の由来とは?

  • タフト大統領説(1910年): ウィリアム・ハワード・タフト大統領が試合中に立ち上がったため、周囲の観客も敬意を表して立ったという有名な説。
  • ハリー・ライトの記録(1869年): シンシナティ・レッドストッキングスのハリー・ライトが、観客が7回の間に立ち上がって手足を伸ばしている様子を手紙に記しています。

※実際には1869年以前から存在していた可能性が高く、特定の誰か一人が始めたと断定することはできません。

この休憩時間に、覚えやすく野球の楽しさをそのまま表現した「Take Me Out to the Ball Game」が組み合わされました。現在では多くの球場で、歌詞にある「ホームチーム」という部分を、実際に応援している球団名に置き換えて歌います。ひいきのチームが違っていても、その数分間だけは球場全体が同じ歌に包まれるのです。

全国的な伝統にした名物アナウンサー

この習慣を広く知らしめた人物として欠かせないのが、シカゴの名物実況アナウンサーHarry Caray(ハリー・ケレイ)です。

ハリー・ケレイはシカゴ・ホワイトソックスの実況を担当していた時代から、この曲を7回に歌っていました。1976年には、球団オーナーのビル・ヴィークのもとで、その歌声が球場の観客にも流されるようになりました。

Harry Carayが1982年からシカゴ・カブスの実況を担当すると、この光景はさらに有名になります。カブス戦がWGNテレビを通じて全米に放送されたため、リグレー・フィールドの観客が彼と一緒に大合唱する姿が、アメリカ各地の家庭に届けられたのです。

決して洗練された歌声ではありませんでしたが、むしろ豪快で親しみやすい歌い方だったからこそ、多くのファンが気兼ねなく参加できました。

歌詞に詰まった「野球場の楽しさ」

この曲がこれほど長く愛されている理由は、歌詞が野球の細かな戦術や有名選手を扱っていないからです。

描かれているのは、観客でにぎわう球場へ行き、ピーナッツやクラッカー・ジャックを楽しみ、地元チームを応援するという素朴な喜びです。(※クラッカー・ジャックは、キャラメル味のポップコーンとピーナッツを組み合わせた菓子で、20世紀初頭の野球観戦を象徴する食べ物の一つになりました)

米国議会図書館が挙げる「長く愛される3つの理由」

  1. 言葉の分かりやすさ
  2. 特定の球団に偏らない内容(どのファンでも自分の歌として歌える)
  3. 記憶に残るキャッチーな旋律

観客を試合の一部にする歌

国歌斉唱が試合の始まりを告げる厳かな時間だとすれば、「Take Me Out to the Ball Game」は、観客自身が主役になる時間です。

上手に歌う必要はありません。隣に座る見知らぬ人と声を合わせ、応援するチームの名前を叫ぶことで、観客は単なる見物人から、球場の雰囲気を作る参加者へと変わります。


1908年に地下鉄の広告から生まれた一曲は、100年以上を経て、世代から世代へと受け継がれる野球文化になりました。

7回にこの歌が流れるのは、単なる昔からの決まりではありません。長く座った体を伸ばし、試合終盤への期待を高め、何万人もの観客が「自分は今、野球場にいる」という喜びを分かち合うためなのです。

たった数分の大合唱ですが、そこにはアメリカ野球の歴史、娯楽、食文化、そしてファン同士の一体感が詰まっています。「Take Me Out to the Ball Game」は応援歌であると同時に、野球場そのものを愛する人々の歌なのです。

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【MLBロースタードットコム編集部】
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