筆者は、MLBを本当に面白く観戦するうえで、打率や防御率と同じくらい知っておきたいのが「ロースター」の仕組みだと考えています。
「有望な若手なのに、なぜすぐ昇格できないのか」「選手を昇格させただけなのに、なぜ別の選手がDFAになるのか」。その答えの多くは、40人枠と26人枠の関係に隠されています。
最初に押さえておきたいポイント
40人枠は「球団が確保しているメジャー戦力の名簿」、26人枠は「実際にメジャーの試合を戦う選手の名簿」です。26人枠の選手は、必ず40人枠にも入っています。
26人枠は「今夜の試合を戦うメンバー」
26人枠は「アクティブロースター」とも呼ばれます。簡単にいえば、その時点でメジャーの試合に出場できる選手の集まりです。
開幕から8月31日までとポストシーズンでは、各球団が原則として26人を登録します。この期間に登録できる投手は最大13人です。
一般的には、先発投手、救援投手、捕手、内野手、外野手などを組み合わせ、162試合の長いレギュラーシーズンを戦います。26人枠に入る選手は、全員が後述する40人枠にも入っていなければなりません。
26人という数字は、一見すると十分な人数に思えるかもしれません。しかし、実際には決して余裕のある人数ではありません。
先発投手を5人、救援投手を8人登録すると、それだけで13人です。残りの13人で捕手、内野手、外野手、指名打者、代打、代走、守備固めなどをまかなわなければなりません。
そのため、複数のポジションを守れる選手や、代走と守備の両方で貢献できる選手が重宝されます。打率だけを見れば目立たない選手でも、限られた26人枠を有効に使ううえで、欠かせない存在になることがあるのです。
ダブルヘッダーと9月は人数が変わる
雨天順延などによるダブルヘッダーでは、40人枠に入っている選手を1人追加し、その日だけ「27人目の選手」として登録できます。
また、9月1日からレギュラーシーズン終了までは、アクティブロースターが28人に拡大されます。この期間に登録できる投手は最大14人です。
登録人数の基本
通常期間:26人、投手は最大13人
9月1日以降:28人、投手は最大14人
ダブルヘッダー:一定の条件で27人目を追加可能
40人枠は「球団が確保しているメジャー戦力」
一方の40人枠は、今日の試合に出る選手だけの名簿ではありません。
26人枠の選手に加え、マイナーにいる選手や、一定の負傷者リスト、忌引リスト、父親リストなどに登録されている選手によって構成されます。
イメージとしては、40人枠が「球団全体のメジャー戦力」、26人枠が「その中から選ばれた一軍メンバー」です。
| ロースター | 主な役割 |
|---|---|
| 40人枠 | 球団が確保しているメジャー戦力全体の名簿 |
| 26人枠 | 現在メジャーの試合に出場できる選手の名簿 |
40人枠に入っているマイナー選手は、26人枠に空きができれば昇格の候補になります。
しかし、40人枠に入っていない選手を昇格させる場合は、まずその選手を40人枠へ加えなければなりません。すでに40人で埋まっていれば、トレード、リリース、DFA、あるいは別の選手を60日間の負傷者リストへ移すなどして、空席を作る必要があります。
40人枠が埋まっている場合、選手を1人昇格させるために、別の選手を40人枠から外さなければならないことがあります。
つまり、有望選手を1人昇格させるだけでも、球団は別の選手を手放す危険を負うことがあります。
40人枠の最後の1席は、ベンチの端にある椅子ではありません。現在の戦力、将来性、故障者の状況までを見比べながら使われる、非常に価値の高い席なのです。
「降格しても40人枠には残る」とは?
選手がマイナーへ降格したというニュースを見ても、必ずしも球団から外されたわけではありません。
マイナー・オプションを使って降格した場合、選手は26人枠から外れますが、40人枠には残ります。
通常、選手には3シーズン分のオプションがあり、その期間はウェーバーを通さずにメジャーとマイナーを行き来させることができます。1シーズン中に複数回昇降格しても、基本的に消費するのは1年分です。
オプション降格の流れ
メジャーからマイナーへオプション降格
↓
26人枠からは外れる
↓
40人枠には残る
一方、オプションを使い切った選手をマイナーへ送るには、原則としてDFAなどの手続きが必要になります。その過程で他球団に獲得される可能性があるため、球団は簡単には降格を決断できません。
実績のある控え選手がロースターに残り、若手がマイナーへ送られる背景には、このオプションの有無が関係していることもあります。
40人枠は若手を守る「防護壁」でもある
40人枠には、選手をルール5ドラフトから守る役割もあります。
プロ入り後に一定の年数を経過した選手が40人枠に入っていない場合、他球団からルール5ドラフトで指名される可能性があります。
18歳以下で契約した選手は5シーズン、19歳以上で契約した選手は4シーズンを経過すると、原則として指名対象になります。
- 18歳以下で契約:原則として5シーズン後に対象
- 19歳以上で契約:原則として4シーズン後に対象
- 40人枠に登録:ルール5ドラフトの指名対象から外れる
そのため球団は毎年オフに、「まだメジャーで使わない若手を守るか」「現在の戦力を残すか」という難しい判断を迫られます。
期待の若手を40人枠に加えるという発表は、単なる名簿変更ではありません。「この選手は他球団に渡したくない」という球団からの評価でもあるのです。
ロースター枠はどのように変わってきたのか
MLBのアクティブロースターは、長い間25人が基本でした。
時代や経済状況による例外はありましたが、1910年には両リーグで一定期間の登録人数が25人に設定され、1968年には最初の労使協定にも25人の上限が盛り込まれました。
長く続いた25人枠から26人枠へ
その後、長く続いた25人枠は26人枠へ拡大されました。
2020年は感染症拡大の影響で特別な登録人数が採用されたため、通常の26人制は2021年から定着しています。ポストシーズンの登録枠も、2020年以前の25人から現在の26人へ変わりました。
9月の大幅なロースター拡大も変更
9月の運用も大きく変化しました。
かつては9月になると、40人枠の選手を大幅にアクティブ登録できました。しかし、球団によって使える選手数に大きな差が生まれ、投手交代が増える問題もあったため、現在は28人までに制限されています。
| 時期 | 主な変化 |
|---|---|
| 1910年 | 両リーグで一定期間の登録人数が25人に設定 |
| 1968年 | 最初の労使協定に25人の上限が盛り込まれる |
| 2020年 | 感染症拡大の影響により特別な登録人数を採用 |
| 2021年以降 | 通常のアクティブロースターとして26人制が定着 |
40人枠と26人枠の違いを整理
| 項目 | 40人枠 | 26人枠 |
|---|---|---|
| 役割 | 球団が確保するメジャー戦力の名簿 | 実際に試合を戦う選手の名簿 |
| 試合出場 | 登録されただけでは出場できない | 原則として出場できる |
| マイナー選手 | 含まれることがある | 含まれない |
| 両者の関係 | 26人枠を内包する | 全員が40人枠にも登録される |
| 若手の保護 | ルール5ドラフトから守る役割がある | 直接的な保護枠ではない |
2つの枠を知れば、選手移動が物語になる
40人枠は「球団が確保するメジャー戦力の名簿」、26人枠は「実際に試合を戦う選手の名簿」です。
26人枠は40人枠の内側にあり、40人枠に入っただけではメジャーの試合に出場できません。
40人枠入り=メジャーの試合に出場できる、という意味ではありません。
メジャーの試合に出場するには、40人枠に入ったうえで、さらに26人枠へ登録される必要があります。
筆者は、ロースター制度こそMLBの編成の奥深さを最も鮮明に映す仕組みだと思っています。
選手の昇格は、ただエレベーターでフロアを一つ上がるような単純な移動ではありません。その裏では、40席しかない椅子を巡って、球団が現在の勝利と将来の可能性を天秤にかけています。
次に「契約を選択して40人枠入り」「マイナーへオプション」「DFA」というニュースを見たときは、ぜひ空いた枠と押し出された選手にも注目してみてください。
そこには、試合結果だけでは見えない、もう一つのメジャーリーグの戦いがあります。
