大谷翔平が打席に入り、山本由伸がマウンドに立ち、佐々木朗希がブルペンで出番を待つ。しかも舞台は、負ければシーズンが終わりかねないプレーオフです。それなのにテレビ画面には、空席がまとまって映ります。
「ドジャースは本当に人気球団なのか」と疑問に思う人もいるでしょう。しかし、ここにはドジャースタジアム特有の事情と、観客動員数という数字の仕組みが関係しています。
正直に言えば、画面越しに見るあの空席に「熱意が足りない」と不満を感じる日本のファンの気持ちも理解できます。しかし、現地ロサンゼルスの狂暴な交通渋滞や、56,000人というMLB最大のキャパシティ、そして猛暑から避難する観客のリアルを知れば、見え方は一変します。
「ガラガラに見えるのに、実は5万人以上が入っている」——この強烈な違和感の裏にあるカラクリと、ロサンゼルスという街の特殊な観戦スタイルについて、私なりの視点を交えて詳しく解説していきます。
この記事のポイント(ドジャースタジアムのカラクリ)
- 巨大な球場容量: 5万6,000席あるため、5万人集まっても数千席残る
- 発表データと実売: 「発表人数」には来場できなかった人・日陰移動者も含まれる
- 環境と交通事情: 猛暑(38度超)やLA特有の激しい交通渋滞が直撃
- 強豪ゆえの余裕: 14年連続PS進出でファンが「本当に見たい試合」を厳選
「観客動員1位」と「毎試合満員」は別の話です
ドジャースは2026年のレギュラーシーズンに403万4219人を動員し、1試合平均は4万9805人。球団記録を更新し、2年連続で400万人を超えました。5万人以上を記録した試合も40試合あります。名実ともにMLBを代表する人気球団です。
それでも、完売したのは81試合中14試合でした。つまり、観客動員数がMLBトップだからといって、毎試合すべての座席が売り切れているわけではありません。MLB最大級の約5万6000席を持つドジャースタジアムでは、平均約5万人が入っても、単純計算で数千席が残ります。これだけ大きな球場では、数千人分の空席があっても観客動員数では他球団を圧倒できるのです。
発表される人数と、座席にいる人数は一致しません
もう一つ重要なのが、発表される観客数とテレビに映る人数は必ずしも同じではないことです。
チケットが売れていても、購入者が実際に来場するとは限りません。急な仕事や体調不良、交通事情、天候などによって来場を取りやめる人がいます。また、球場には飲食店、売店、通路、テラスなどがあり、試合中ずっと自分の席に座っているとは限りません。
特にドジャースタジアムでは、暑さが強烈な日には日なたの座席を離れ、日陰やコンコースで観戦する人が増えます。テレビカメラはグラウンドに近い座席を長時間映すため、その一帯の人が移動すると、実際の来場者数以上に「ガラガラ」という印象が生まれます。
【事例】2026年10月3日 地区シリーズ第1戦
発表された観客数は5万194人でした。それでも日なたには大きな空席の塊が見られました。この日の試合開始時の気温は摂氏約38度。チケットを持っていても来場を断念した人や、日陰へ避難した観客が少なくなかったと報じられています。
つまり、空席に見える場所のすべてが「売れなかった席」ではありません。売れていたけれど来なかった席、来場者が一時的に離れていた席も含まれています。
ロサンゼルス名物の交通渋滞も影響します
ドジャースタジアムはロサンゼルス中心部に近い高台にありますが、多くの観客が自動車で来場します。周辺道路や駐車場の入口が混雑すると、試合開始時刻になってもまだ車内という人が出てきます。
そのため、試合開始直後は空席が目立っていても、2回、3回と進むにつれて埋まっていくことがあります。反対に、試合終了後の大渋滞を避けるため、点差が開くと早めに帰る人もいます。
テレビで最初の一球や9回だけを見れば、「プレーオフなのに空いている」と感じます。しかし試合中盤には、別の光景になっていることも珍しくありません。
強すぎることが生む「プレーオフ慣れ」
ドジャースは2026年まで14年連続でプレーオフに進出しています。地区シリーズは、ロサンゼルスのファンにとって非常に大切な試合である一方、めったに体験できない特別行事ではなくなりつつあります。
さらにプレーオフでは、レギュラーシーズンよりチケット価格が上がりやすく、駐車料金や飲食代も加わります。シリーズが勝ち進めば、地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズ、ワールドシリーズと出費が続きます。
そこでファンは「すべて行く」のではなく、「本当に見たい試合に資金を残す」という選択をします。地区シリーズは自宅のテレビで見て、ワールドシリーズ進出時に大金を使うという人もいるでしょう。毎年のように優勝争いをする強豪だからこそ、観客側にも“10月の長期戦”を見越した判断が生まれます。
大谷、山本、佐々木がいても埋まらないのか
もちろん、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希という日本人3選手の存在は、ドジャース人気をさらに世界規模へ押し上げています。2026年の地区シリーズ登録メンバーにも、大谷は二刀流選手、山本は先発投手、佐々木は救援投手として名を連ねました。
しかし、大谷が出場するからといって、ロサンゼルスの約5万6000席が毎日必ず満席になるわけではありません。平日昼間の試合、猛烈な暑さ、高額なチケット、交通渋滞が重なれば、世界的スターの魅力だけでは埋められない座席も出てきます。
一方、ワールドシリーズは「次がいつになるか分からない」究極の舞台です。優勝決定の可能性がある試合なら、価格や渋滞を承知で足を運ぶ人が一気に増えます。そのため、地区シリーズなどと比べ、文字どおり隙間のない大観衆になりやすいのです。
ただし、「本当に全席が埋まるのは毎年ワールドシリーズだけ」と言い切るのは正確ではありません。2026年のレギュラーシーズンにも14試合が完売しています。対戦相手、記念品の配布、大谷の登板予定、週末開催など、複数の条件が重なれば、通常の試合でもチケットは売り切れます。
【まとめ】空席は人気がない証拠ではない
ドジャースタジアムの空席は、人気がない証拠ではありません。
- 巨大な収容規模
- 実来場者と発表人数の違い
- 暑さ・交通渋滞・チケット価格
- ファンのプレーオフ慣れ
これらが折り重なって生まれる光景です。
黄色い座席が少し見えていても、その日の観客数は他球団なら「超満員」に近い場合があります。ドジャースタジアムでは、空席さえも球場の巨大さを語っているのです。

「日本で一番大きなレストランが、最も多くのお客を集めながら、毎日すべての椅子まで埋まるわけではない」と考えると、分かりやすいかもしれません。